トグル機構の計算
ジグのクランプに使う倍力機構。倍力比・クランプ力と、リンクの座屈まで。
トグル機構(ひざレバー機構)は、2本のリンクが一直線に近づくほど大きな力が出る機構です。製造現場のジグではトグルクランプとして、プレスや圧着ではトグルプレスとして使われます。手の力でワークを強く押さえられるのは、この倍力があるからです。
リンク長と締め切り角から倍力比とクランプ力を求め、あわせてリンクに掛かる圧縮軸力と座屈を確認します。トグルで実際に壊れるのはリンクの座屈なので、力の計算と同じ画面で見られるようにしています。
α1 はリンク1が軸となす角。0° が死点(リンクが一直線)です。η はピンの摩擦などによる目減りで、実測が無ければ 80〜90% を目安にしてください。
2本とも同じ断面として計算します。角棒は薄いほうの向きに座屈するので、弱軸で評価しています。
締め切り角と倍力比の関係。赤い点がいまの姿勢です。
| 節点の高さ h | –mm |
|---|---|
| リンク2の角度 α2 | –deg |
| 支点からスライダまで x | –mm |
| リンク2の軸力 | –N |
| リンクの圧縮応力 | –MPa |
| 座屈荷重(オイラー) | –N |
| 座屈に対する安全率 | –– |
| 死点までのスライダの移動 | –mm |
なぜ死点に近づくと力が増えるのか
節点を軸へ向かって dh だけ押し込むと、スライダは dx だけ押し出されます。この2つの比が、そのまま力の比になります(仕事は増えないため)。
幾何から dx / dh = −(tanα1 + tanα2) なので、出力は Q = P / (tanα1 + tanα2)。左右対称なら教科書どおり Q = P / (2·tanα) です。角度が小さくなるほど分母が 0 に近づくので、倍力比は際限なく大きくなります。
ただし増えているのは力だけで、動く量は同じ比で減っています。死点付近ではスライダはほとんど動きません。「大きな力が要るが動かす距離は要らない」クランプや圧着に向くのはこのためです。
ストッパで角度を決める理由(実機での使い方)
倍力比は角度だけで決まります。ということは、ワークの寸法が 0.1 mm 違うだけで角度が変わり、クランプ力が何割も変わるということです。α1 が 3° 付近では 0.5° のずれで出力が 2 割前後動きます。
実機ではこれを次のように処理します。クランプの締め切り位置は機械的なストッパで決め打ちにし、ワークのばらつきは押さえ側に入れたばねやウレタンで吸収します。こうすると角度が固定されるので、クランプ力が寸法ばらつきに引きずられません。
市販のトグルクランプが「押さえボルトで高さを調整する」構造になっているのも同じ理由です。調整するのは高さであって、角度ではありません。
死点越え(オーバーセンター)と自己保持
実際のトグルクランプは、死点をわずかに越えた位置で止めます。越えた側ではワークからの反力がリンクをさらに越える向きに押すので、手を離しても戻りません。これが自己保持(セルフロック)です。市販のクランプでハンドルが「カチッ」と落ち着くのはこの位置です。
越える量はごくわずか(1〜2° 程度)で、越えすぎるとクランプ力が落ちます。越えた側の姿勢を止めるストッパが必ず要ります。
本ツールは死点の手前(α1 > 0)だけを計算します。越えた側は幾何としては鏡像で、力の大きさは同じ角度の手前側と同じです。
計算方法について
力は仮想仕事で求めています。h = L1·sinα1 = L2·sinα2、x = L1·cosα1 + L2·cosα2 から Q = P / (tanα1 + tanα2)。リンク長が非対称でもそのまま使えます。節点まわりの釣り合いからリンクの圧縮軸力 F1 = P / (sinα1 + cosα1·tanα2)、F2 = F1·cosα1 / cosα2 を出し、Q = F1·cosα1 = F2·cosα2 で検算しています。
座屈はオイラーの式 Pcr = π²EI / (KL)² です。細長比が小さい(太くて短い)リンクではオイラー式は実際より大きな値を出すので、安全率が 3 を切る領域では別途ジョンソン式などでの確認をおすすめします。
機械効率 η はピンの摩擦・案内面の摩擦をまとめて割り引く係数です。死点に近いほど軸力が大きくなり摩擦損失も増えるため、実機では角度が小さい領域ほど η は下がります。ここでは一定値として扱っています。慣性力・動的荷重は含んでいません。
※ 本ツールは一次検討を目的とした簡易計算です。応力集中、疲労、ピンとブシュの面圧、溶接部、動的荷重、温度影響は考慮していません。材料の降伏点・耐力は代表的な目安値であり、規格値そのものを保証するものではありません。実機の設計・製作にあたっては必ず個別の検証を行ってください。本ツールの結果に起因する損害について当社は責任を負いかねます。
この計算を、御社の条件で
使う材料、社内で決めた安全率、部署ごとの呼び方。ここに並べた計算ツールと同じものを、御社の基準に合わせて作ります。ブラウザで動くもののほか、Windows / macOS のデスクトップアプリ、Office のアドインでも。