受託設計で毎回引き直していた計算を、5本のブラウザツールにして公開した
取り組んだ理由
受託設計をしていると、同じ計算を毎回引き直します。はりのたわみ、ねじの軸力、ばねの応力、リンクの速度とトルク。どれも教科書に載っている式ですが、実務で必要なのは式そのものではなく、その場ですぐ答えが出て、判定まで付いていることです。
社内では Excel でやっていました。ただ Excel は、誰かがセルを一つ書き換えた瞬間に別物になります。式が見えない、どの版が正しいか分からない、他部署や協力会社へ渡せない。この3つが解決できていませんでした。
あわせて、設計を外注する側にとって相手の技術力は事前に確かめにくい、という問題があります。当社は案件の内容を守秘義務のため公開できません。そこで普段どういう計算をして設計しているかを実物で見せることにしました。
やったこと
実務で使う計算を5本のツールに整理し、ブラウザだけで動く形に作り直しました。
- はりのたわみ・曲げ応力 断面6種・支持条件4種。断面形状をその場で描き分け、曲げモーメント図まで出します
- ねじ締結の計算 摩擦係数からトルク係数を求め、外力の分配・座面面圧・すべりとせん断の余裕を判定します
- 圧縮コイルばねの計算 Wahl 補正込みのねじり応力、ばね指数と密着長さの判定
- スライダクランク機構の計算 クランクを連続回転させ、死点付近の挙動を目で見て確かめられます
- トグル機構の計算 ジグのクランプの倍力比とクランプ力、そしてリンクの座屈を同じ画面で
設計にあたって決めたことが3つあります。
入力した値をサーバーへ送らない。 計算はすべて閲覧者のブラウザの中で終わります。設計値は他人に見せられない情報なので、そもそも受け取らない作りにしました。
判定まで出す。 数値だけ出しても「で、これは大丈夫なのか」が分かりません。安全率や許容値と突き合わせ、OK・要注意・NG と、その理由の文章まで出しています。
なぜそうなるかを併記する。 各ツールに「なぜ死点で力が増えるのか」「l/r 比が効く理由」といった解説を付けました。答えだけ配ると、使う人が判断できるようになりません。
結果
5本とも公開・運用中です。当社の設計実務でもそのまま使っています。
この案件で言えること
社内ツールは「作る価値があるか」の判断がいちばん難しい工程です。当社の場合は、すでに手でやっていて、回数が数えられる作業だけを対象にしました。月に何回・1回あたり何分という数字が出れば、投じる手間と釣り合うかはその場で判断できます。
逆に「あったら便利そう」から始めたものは、作っても使われませんでした。ここは各社のご相談でも最初に確認しています。